ホイールアライメント調整例
車種 アウディ A3
年式 1997年
型式 E−8LAGN
グレード
走行距離 63000Km
タイヤ、ホイールサイズ 195/65-15




トラブル依頼事項

半年前に中古車を購入後、後輪タイヤの異常摩耗とともに、ステアリング操作も疲れ、スピードを出すと恐怖すら覚える。

雨天の運転は出来ないぐらいに怖いとの事。
受け入れ検査及び試乗

試乗はしなくても目視で後輪トーのアンバランスが確認できた。

右後輪トーアウト過大。左後輪トーイン過大

後輪が大きくバランスを失ったA3の走りの姿はフロントが大きく左に傾き、ステアリングセンターは1時方向(右)に傾く。おそらく後より眺めると斜めに傾き走っていたと思う。

後廻りに事故の痕跡が無いかと調べるが、目視では発見出来ません。外観に痕跡が無いということでおそらく右後輪を溝などに脱輪させ、ホーシングを含めたハブ廻りの変形と推察した。

目視での説明ではお客様も困惑されるのでテスターで調べる事にした。



右後輪


大きくアウトになっている。
左後輪

こちらは大きくインになっている。

この車はリヤがリジットアクスルになっていて全く調整など出来ない。

ましてそのリジットアクスルのホーシングが変形している。



右ホイールベース【2531mm】




左ホイールベース【2515mm】



大きく変摩耗した後輪タイヤ。
セットバック修理作業

まず、ホイールベースの左右差よりリヤホーシングの取替えが必要である。

部品を見積りしたところ、なんと188、000円との事。同時にブッシュの交換も必要でこの部品が9,600円。工賃なども合計するととんでもない金額となってしまします。

お客様に相談をすると当然ながら驚かれ「保証期間も過ぎなんとか安価な方法でお願いします」との事。
とりあえずトライしてみる事で車を預かることにした。同時にタイヤの交換もする事になった。



リヤアクスルホーシング

輸入車、国産車を問わず量産車に最も多いサスペンションです。

全くの調整を許さず、アライメント調整に携わる者としては恨めしいサスです。

アルファードやステップワゴンなどミスアライメントを訴える方が多いサスペンション構造です。




まず、右リヤホーシングブラケットを取り外し、ブラケット取り付け穴をリューターで削り長穴加工する。

左側も同様にし、コンペアゲージで計測しながら左右差の無い位置に取り付けセットバックを補正する。ホイールアライメントの基礎であるこれらの位置は綿密に計測しながら作業を行う。取り付けた後には当然ながら長穴にしたブラケットの動きを抑えるためボルトを点溶接する。



左右の長さをコンペアゲージで測定しているところ。

セットバック(ホイールベース)の左右差は無くなったが、、、、、


オフセットが発生している。

ブラケット加工で縦ズレ(セットバック)を補正したが、横ズレ(オフセット)が生じている。

このオフセットはもうブラケット加工では対応出来ない。横方向に長穴を削ってもブラケットのフランジ部分が邪魔をしてボルトが掛からない事態になっているからです。


この補正は別の方法で対処する事にした。(後述)
後輪トー調整、オフセット補正、シム製作

ホーシングは元の位置(オフセットは除く)になったが肝心のトーはアンバランスのままです。

この時点で再度アライメント測定をし、トーの確認をする。なぜならホーシングの縦ズレ補正をする事によってトーも変化するからです。

右⇒イン方向に移動。   左⇒アウト方向に移動。

当初の右後輪トーアウト過大、左後輪トーイン過大は少なからずとも緩和されているのです。

測定結果から右後輪トーイン8mm。左後輪トー0mm。と診断しました。右後輪イン8mmを補正する方法は後輪ハブとホーシングの間に入れるシムを選択しました。同時に左側オフセットを補正するためのシムも製作しました。



ホーシングとハブを切り離したところ。



ホーシングのハブ面を型紙で取る。



厚さ5mmの鉄板を型紙どうりに製作。





型どうりに切った鉄板を右後輪用に勾配加工をする。

左同様トーゼロにするため計算より前方向厚み0.5mm。後方向厚み3.7mmの勾配加工の様子。


出来上がり。左のシムが右側用で勾配加工がしてある。

右側のシムはオフセットの補正用で左側に使用する。厚みは測定結果より4.5mmとしている。



右後輪シムをハブに装着。

この時、ハブベアリングの再使用に問題が残るが、予算を極力抑えるためお客様の同意を得て再使用しています。



左後輪。



4.5mmの厚みでオフセットを補正する。

アライメント再測定



右後輪。



左後輪。



右ホイールベース【2526mm】



左ホイールベース【2525mm】

計算は的中しました。左右ともトーは【ゼロ】になり、ホイールベースも1mm差です。

予想はしていたものの感動さえ覚える一瞬でした。


その他の数値

項目 目標値
フロントトー 0mm 0mm 0mm
フロントキャンバ -0°45′ 0°00′ -0°45′
キャスター 6°35′ 6°35′ 6°35′
SAI 14°20′ 13°50′ 14°00′
20度回転角差 -1°30′ -1°50′ -1°30′
最大回転角【左】 38°30′ 22°00′ 左右差ゼロ
最大回転角【右】 31°00′ 37°30′ 左右差ゼロ
リヤキャンバ -1°50′ -1°45′ -2°00′
リヤトー 0mm 0mm 0mm

作業を終えて

フロントキャンバの左右差が気に入らない結果ですが、大きなトラブルをシム製作で解消した満足感は大きな物が有ります。

お客様も大変満足して頂きやりがいのある一台でした。何よりも危険を感じながら運転していた車ですので安全に貢献できて幸せといったところです。リヤキャンバの数値が大きいところですがトーとキャンバ同時のシム製作は不可能なことですのでキャンバのみの変摩耗の発生はご勘弁願った次第です。

安全と言う面ではハブボルトやキャリパーボルトもシムの厚み分長い物に変更をしています。

今後、リヤリジットのアルファードやステップワゴンなどのトラブル車にもフィードバックして行くところです。


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